【EVO Japan 2024】『鉄拳8』はラストサムライ、チクリン選手が優勝!『スト6』はCAPCOM CUP2timesチャンピオンMenaRD選手が制覇
4月27~29日に有明GYM-EXにて対戦格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2024」が開催されました。EVO Japanは7つのメインタイトルを中心に、コミュニティが開催するサイドトーナメントを含め、対戦格闘ゲームを中心とするさまざまなゲームのトーナメントを行うイベントです。メインタイトルである『UNDER NIGHT IN-BIRTH II』はDay1で予選から決勝まで行い、それ以外は予選を行います。Day2は『KOF XV』『グランブルーファンタジーバーサス ライジング』『ストリートファイターIII 3rd Strike』の予選と決勝を行い、Day3では『ギルティギア ストライヴ』『鉄拳8』『ストリートファイター6(スト6)』の決勝大会が行われました。今回はDay3の様子をお伝えします。
Day3はDay1・Day2の予選を勝ち抜いた6名(ウイナーズ4名、ルーザーズ2名)が決勝トーナメントに進出します。
『ギルティギア ストライヴ』はウイナーズサイドにもっちー選手、TEMPEST NYC選手、みぐみぐどっこいしょ選手、sanakan選手、ルーザーズサイドに御傍選手、ちゅらら選手6選手が、『鉄拳8』はウイナーズサイドにチクリン選手、CHANEL選手、Infested選手、LowHigh選手、ルーザーズサイドにダブル選手、Mngja選手の6選手が、『スト6』はウイナーズサイドに、MenaRD選手、りゅうきち選手、Lexx選手、Vxbao選手、ルーザーズサイドに翔選手、もけ選手の6選手がファイナリストになりました。
決勝トーナメントはダブルエリミネーション方式のトーナメントで、ウイナーズサイドの敗者はルーザーズサイドトーナメントに移動し、ルーザーズサイドで敗者となると、そこで敗退となり、順位が確定します。ウイナーズファイナルの勝者とルーザーズファイナルの勝者がグランドファイナルで対戦し、ウイナーズサイドの選手が勝利すると優勝、ルーザーズサイドの選手が勝利するとリセットと言う状態になり、再度、グランドファイナルを行うグランドファイナルリセットが行われます。グランドファイナルリセットで勝利した選手が優勝です。
メインタイトルの優勝者は以下の通りです。
UNDER NIGHT IN-BIRTH II 恭選手
THE KING OF FIGHTERS XV ET選手
ストリートファイターIII 3rd Strike SHO選手
グランブルーファンタジーバーサス ライジング ルーキーズ選手
ギルティギア ストライヴ TempestNYC選手
鉄拳8 チクリン選手
ストリートファイター6 MenaRD選手
今回は『鉄拳8』と『スト6』に焦点をあて、大会の振り返りと優勝者インタビューを掲載します。
韓国勢を退け、世界一に
『鉄拳8』のファイナリストとなったのは、韓国勢4名と日本勢2名。今回はビザの関係でパキスタン勢が来日できなかったので、やはりこの2ヵ国が上位を占めることになりました。日本勢はウイナーズにひとり、ルーザーズにひとりと、韓国勢が圧倒的に有利な状況です。特にウイナーズサイドはeスポーツチームDRXに所属している3人が揃っており、残りの一人であるチクリン選手を完全に包囲した状態です。ちなみにDRXは『League of Legends』や『VALORANT』などでも活躍している韓国の名門eスポーツチームです。
また、今大会でベスト4以上になると夏にサウジアラビアで開催されるeスポーツワールドカップへの出場権を得ることができます。チクリン選手がウイナーズで初戦敗退するとルーザーズでダブル選手との対戦となるので、現時点でひとりはeスポーツワールドカップへの出場権を得ることができますが、ふたりとも出場権を得るにはチクリン選手が初戦を勝つことがマストです。チクリン選手の初戦はCHANEL選手。チクリン選手は『鉄拳8』からリリを使用し、コントローラーもアケコンからパッドに変更しています。どちらかと言うと守りの堅い印象のあるチクリン選手ですが、『鉄拳8』は攻めが強いシステムとなっているので、しっかりと攻め重視の戦いかたをしていきます。高い火力と強力な2択を武器に初戦はCHANEL選手をストレートで下しました。
そのCHANEL選手はルーザーズでダブル選手と対戦します。ダブル選手は魂のキャラクター、ロウを使用。ダブル選手はスライディング(下段)と中段の2択で攻めたいところですが、CHANEL選手のアリサの機動力の高さに中段がからぶってしまいます。そこに反撃を食らう展開に、より踏み込むことで対応していきます。お互いに1本取り合ったのちフルセットフルラウンドまでもつれ込みます。しかし、あと一歩及ばず、ダブル選手は5位で終了しました。
チクリン選手はウイナーズファイナルでLowHigh選手と対戦します。一進一退の攻防ながらギリギリのところで星を取るチクリン選手が3-1でグランドファイナル進出です。
ルーザーズではダブル選手を破ったCHANEL選手が勝ち上がり、LowHigh選手と対決するもLowHigh選手に軍配があがります。これでグランドファイナルはウイナーズファイナルと同じカードとなりました。チクリン選手としてみれば、どちらの選手が勝ち上がってきても一度倒した相手なうえ、ウイナーズの利点もあり、大きな有利のままグランドファイナルを迎えることになりました。
グランドファイナルでLowHigh選手は先ほど敗北したドラグノフではなく、スティーブを選択します。一度敗北したドラグノフをそのまま出すより、元々のメインキャラクターの底力と練度に賭け、チクリン選手に陽動をかけます。しかし、チクリン選手には揺さぶりが効かず、1セットを落とすとすかさずLowHigh選手はドラグノフに切り替えてきます。ここからチクリン選手の独壇場。起き攻めのラピッドダンスの2択がことごとく通り、LowHigh選手を退けました。数々の国際大会で優勝してきたチクリン選手がEVO Japanで初の戴冠となります。
優勝したチクリン選手のインタビューです。
――優勝おめでとうございます。まずは率直な感想をお聞かせください
チクリン選手:大会に出る前は結構不安だったんですけど、ちゃんと練習してきたことが試合で全部出せ、優勝できたことが本当に嬉しいです。タイトルが『鉄拳7』から『鉄拳8』に変わり、使用していたキャラクターもいなくなってしまった状態からのスタートになりました。今回、リリを選んだ理由は、元々カウンターが強いキャラクターが好きでずっと使っていました。リリはカウンターと横の軸移動が強いというのがあって、やれることがあって本当に面白いキャラクターだなと思ったのがきっかけですね。『鉄拳7』の時もリリは触っていましたが、ちょっと触れたくらいでしたね。
――EVO Japanはチクリン選手にとってどういった大会でしたか
チクリン選手:国際大会の中では優勝したら世界一に近いと言える大会だと思います。これまでEVO Japanではトップ8にも到達することができずにいた大会でした。今までアーケードゲームからスタートだったので、『鉄拳8』が初めてコンシューマーからのスタートになりました。なので、家庭用ですぐに触れるっていうのは嬉しくて、毎日触っていました。今回、操作デバイスをアケコンからパッドに変更して、ゲームも新しくなって、そういった環境の変化が面白かったですね。もちろん、『鉄拳8』自体が楽しかったというのはあるんですけど、毎日楽しく練習することができました。
――決勝トーナメントはCHANEL選手、LowHigh選手と強敵揃いでしたが、プール予選で厳しかった相手は居ましたでしょうか
チクリン選手:やはりKnee選手ですね。自分の中では世界最強の人だとずっと思っていますし、これまでの大会で結構負けることもあったので。『鉄拳8』になって、自分の戦い方がこれまでと変わっているので、それがどこまでKnee選手に通用するのかなって言う感じで挑みました。
――今後、キャラクターが増えていくと思いますが、出て欲しいキャラクターとかありますか
チクリン選手:今回、リディアが発表されたのでリディアが気になりますね。『鉄拳7』の時にかなり使っていたんで、今はすごく楽しみです。
――壇上で「鉄拳8は面白いので是非やって欲しい」と発言がありましたが、どういった点が面白いのか聞かせていただけますか
チクリン選手:3Dなので、奥行きがあったりしますし、キャラクターひとりひとりのモーションがちゃんと作られていて動きがすごいんですよ。新たに導入されたヒートシステムのおかげで、これまで守り主体のゲーム性から攻めが強くなったので、新規の方も攻めることができ、楽しめるようになっています。
――ありがとうございました。
CAPCOM CUPに続き、EVO Japanも戴冠のMenaRD選手
『スト6』は唯一ウイナーズサイドに残っているりゅうきち選手が『SFV』のツータイムスチャンピオンであるMenaRD選手との対戦です。MenaRD選手はメインキャラクターがブランカですが、ダブルメインと言えるほどルークの実力が高い選手です。MenaRD選手は、りゅうきち選手の使うケンとの相性を考え、ルークを出してきます。お互いに攻め攻めのアグレッシブな戦いを繰り広げますが、MenaRD選手の飛び、読み、ジャストパリィが冴え渡り、2セットを連取します。3セット目も大幅リードでラウンドを取り、勝利にリーチ。このままストレートで行くかと思われましたがりゅうきち選手が反撃の狼煙をあげます。特に4セット3ラウンドではもはや体力がドット残りとなったケンがわずかな隙を突き、大逆転をみせます。このラウンドの戦いに会場はりゅうきち選手の逆転勝利を信じて疑いません。しかし、5セット目はMenaRD選手の一方的な攻撃が決まり、グランドファイナルに進出しました。
これによりルーザーズサイドは4人中3人が日本人選手となり、りゅうきち選手対もけ選手の日本人対決が行われました。りゅうきち選手はMenaRD選手戦と同様にいきなり2セットを連取され、3セット目もラウンドを先取されてしまいます。しかし、ケンの飛びに合わせられたSA3を着地際でのガードに成功し、そこから一気に流れがりゅうきち選手に変わります。お互いにバーンアウトになることも構わず、ドライブゲージをフルに使う攻撃的な展開。しかし、バーンアウトになるとさすがに辛く、凌ぎきることができない場面が増え、倒されてしまいます。今回は、きっちりと逆3タテを決めたりゅうきち選手が勝利しました。
ルーザーズ準決勝はまたもや日本人対決となり、りゅうきち選手対翔選手の一戦。実は予選プールでこのふたりは対戦しており、翔選手をルーザーズサイドに落とした張本人がりゅうきち選手でした。そのときは圧倒的なほどにりゅうきち選手のペースで試合を運ばれたので、りゅうきち選手が有利と思われていました。1セット1ラウンド目こそ、プールでの対戦の二の舞と言える戦い内容でしたが、そこから翔選手が対応します。ドライブリバーサルを多用することでケンの怒濤の攻撃を途切れさせます。また、アップデートで弱体化したしゃがみ強パンチに変わり対空技として空中投げを多用するなど、対応策をみせてきます。3セット目からは翔選手のペースで試合が進み、翔選手がルーザーズファイナルに進出しました。翔選手は昨年北米で開催された本家EVOでAngry Bird選手のケンに敗北したあと、直後のサウジアラビアの大会Games8では勝利しています。短期間で敗北した相手にリベンジできるのは、対応力の高さ故なのでしょう。翔選手はウイナーズファイナルからルーザーズに落ちてきたLexx選手にも勝利し、グランドファイナルに進出します。
グランドファイナルでは、MenaRD選手がブランカを選択。翔選手が使用するJPは遠距離での戦いが得意なのに対して、ブランカは素早く、トリッキーな動きで相手を翻弄させつつ、中近距離で戦いたいキャラクターです。また、どちらもゲージ技であるSA2が強力で、ゲージの運用が勝利の鍵と言えます。MenaRD選手は近づきにくいJPに対して、抜群の読みと駆け引きによっていとも簡単に近づきます。ゲージが溜まると即座にSA2を発動し、一気にJPの体力を奪っていきます。特にJPがバーンアウトしてからは、小技キャンセルエレクトリックサンダーを繰り返し、ガードの上からガシガシ体力を削っていきます。片や翔選手はSA2やジャストパリィ、距離を離してのシューティングモードを狙っていきます。しかし、MenaRD選手に対応され、ブランカの猛攻を防ぎきることはできず、ストレートで敗退をしました。『SFV』時代はCAPCOM CUPで2度の優勝を果たしたMenaRD選手ですが、早くも『スト6』の国際大会での優勝を決めました。
優勝したMenaRD選手のインタビューです。
――優勝コメントで「MenaRD選手は日本で生まれた」と言っていましたが、その真意をお聞かせください
MenaRD選手:日本は対戦格闘ゲームが生まれた場所であり、カルチャーが生まれた場所です。私は対戦格闘ゲームのコミュニティで生きていますので、そういった意味で、日本で生まれたと言わせていただきました。とにかく、EVO Japanで優勝できたのは大変嬉しく思っています。
――昨年からタイトルのナンバリングが5から6に変わり、ゲーム内容やキャラクターも一新されましたが、『スト6』に関してどういった印象を持たれていますか
MenaRD選手:キャラクターやゲームが変わったという事実は確かにそうなんですけど、それよりも自分のメンタルを保つということが重要ですね。自分が常に試合に集中できているかどうかを大事にしています。今回、優勝できたのも、そういうところが要因になるのではないでしょうか。
――EVO Japanの『スト6』部門は参加者が5000人を超える規模でした。この結果と大会3日間を通しての感想はいかがでしょうか
MenaRD選手:『スト6』の日本での受け入れ方って本当に素晴らしいと思います。SFLも始まっていないということもあり正直参加するかどうか悩んだ部分もあるんですけど、歴代3番目に大きな大会と言うことも含めて、やっぱりこれは出ないといけないと思いました。
――決勝戦で対戦した翔選手の印象はいかがでしょうか
MenaRD選手:翔選手は私にとって、気の抜けない相手で、寝るときに思い出すくらいの選手ですね。ラスベガスやシンガーポール、サウジアラビアなど、負けていますし、今回、リベンジできたことは何より嬉しいですね。翔選手はJPをやめたという話を聞いていたので、JPだけでなく、すべての翔選手の動画をチェックしていました。翔選手との対戦はずっと想定していました。
――翔選手以外に苦戦した相手、印象に残った相手はいますでしょうか
MenaRD選手:りゅうきち選手ですね。セットカウントが2-2になるくらいで、自分のミスもあり、ギリギリの状況に追い込まれました。最終的に勝つことができて良かったんですけど、いろいろ大変だったなという印象です。
――昨年のTOPANGA World Championshipで伺った時に、ドミニカ共和国では『大乱闘スマッシュブラザーズ』の人気が高いとの話でしたが、『スト6』になり、MenaRD選手が活躍を続けたことで状況は変わったのでしょうか
MenaRD選手:ドミニカ共和国では確実に『スト6』が一番有名なタイトルになっていると思います。何よりも私の戦いというものを対戦格闘ゲームファンやコミュニティだけじゃなくて、様々な方が観てくれている実感がすごくあります。『スト6』は間違いなく、世界中でも一番だと思いますし、ドミニカ共和国の中でも一番のタイトルだと思っています。
――ありがとうございました。
これまでのEVO Japanと同様に、Day3となると、それまでのオープン参加のごった返し感とは別ものの観戦する大会として様変わりしました。ファイナリストになった選手はいずれも高い技術を持ち、最強と呼べる人たちばかりで、観客を大いに魅了します。今回は空前の『スト6』ブームもあり、参加者、観戦者ともに多くの人が集まっていましたが、『スト6』以外のタイトルの魅力も感じ取れたのではないでしょうか。来年の春にはまたEVO Japanが開催され、より多くの人に参加、観戦されることを期待します。
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。イベント取材を始め、法律問題、eスポーツマーケットなど、様々な切り口でeスポーツを取り上げる。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『ゲーム業界のしくみと仕事がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社刊)。@digiyas