
2025年1月16日に、REJECT HUBにて負けのこりトーナメント「消毒杯 Powered by NURO 光」が開催されました。
REJECTとNURO 光の組み合わせでのイベントは「ストリートファイター6 #ときどNURO光で生対戦」「#はじめしゃちょーNURO 光で生対戦」「騒音カップ Powered by NURO 光」に続き、4回目です。どのイベントも特徴的なルールを用いて対戦したイベントで、今回もかなり特殊なルールとなっています。
ちなみにNURO 光のイベントなので、オフラインイベントながらNURO 光を使ったオンライン対戦で対戦が行われます。


消毒杯 Powered by NURO 光 とは?
イベントの発案者はREJECT 格闘ゲーム部門プロデューサーのこく兄さん。『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』時代に、企画したイベントです。通常のトーナメントと違い、勝者が残り、勝ち続ける選手が優勝するのではなく、勝てばその場で抜けることができ、負けると戦い続けなくてはなりません。
つまり優勝者は1回も勝つことができなかった最弱プレイヤーのレッテルが貼られてしまう、何よりも過酷なトーナメントと言えます。参加者のモチベーションは勝ち続けたいではなく、いち早くトーナメントから抜ける為に勝ちたいという後ろ向きな感情が先立ちます。

しかも、対戦はBO1、いわゆる1先勝負で、シングルエリミトーナメントとなっており、1回負けた時の重みが半端なく重く、しかも負ける度のその重圧は増えていきます。
「参加している人はみんな自分が最強って思っているんですよ。16人参加したら、最弱になるのは1/16で、まさか自分が15/16が引けないなんて思ってないんですよ。絶対誰かが1/16を引くことになるのに。まあ、一応、その場は最弱が決まるんですけど、何回大会やっても最強が決まらないように、最弱も決まらないんですよね。たまたま今回はそうなったって感じで。なので、結構みんな楽しんでくれていて、今回、復活することになりました」とこく兄さんは語っています。
今回、この不名誉なトーナメントに集められたのは、おぼさん、ドンピシャさん、布団ちゃん、しんじさん、ありけんさん、石井プロさん、Zerostさん、こく兄さんの8名。『スト6』のイベントではお馴染みのストリーマーのみなさんです。







運命で決まるトーナメントシステム
まずはトーナメントの組み合わせ決めです。あらかじめSNSで募集していた優勝者予想のランキングが高い順にくじを引き、トーナメント表を埋めていきます。好きなところを選べるわけではないので、ここでも最弱となる要素に運が加わっていることも大会の面白さに拍車をかけています。
試合前のインタビューでは、石井プロさんが優勝候補との呼び声が高かったのですが、SNSによる優勝者予想ではおぼさんがダントツの1位でした。そのおぼさんが引いたのはF。そして2位だった石井プロさんが引いたのはなんとEでした。ふたりがくじを引いただけで、1回戦の3試合目の組み合わせが決まります。優勝者予想が必ずしも強さの指標となるわけではないですが、その予想から判断するに、いきなり事実上の決勝戦が決定したと言えます。ただ、石井プロさんは、MR1800タッチをしており、実はかなりの実力者ではないかという話も。
他の組み合わせは1試合目となるのがしんじさん対ありけんさん。ありけんさんはマルチキャラ使いで、相手との相性の良いキャラを選べる利点がありましたが、初戦がザンギエフ使いのしんじさんと言うことで、メインキャラクターのダルシムを出せるという運の良さを見せます。
2試合目はZerostさん対こく兄さんのケンミラー対決。そして3試合目は石井プロさん対おぼさん。4試合目は布団ちゃん対ドンピシャさんに。4試合目は逆の意味での頂上決戦と言えるかも知れません。

極度の緊張が流れた試合の行方
初戦は相性の良さを活かし、ありけんさんがしんじさんを倒して一抜けを決めます。こく兄さんにとって、しんじさんのザンギエフが残ることは準決勝での戦いが厳しくなるとみて、しんじさんを罵詈雑言込みの全力応援をしていましたが叶わず。そのこく兄さんですが、Zerostさんとの同キャラ、ケンミラー対決です。さすがに一日の長があるこく兄さんが勝利し、心配したザンギエフ戦をせずに済みました。
3回戦は石井プロさん対おぼさん。おそらく二人にとって、この対戦がもっとも勝ちを拾いやすい組み合わせとなるので、緊張感が周りにも伝わるほどでした。とくにおぼさんはガチガチで、もはやマスターランクの実力を持っているとは思えない動きの悪さでした。多少余裕のある石井プロさんが勝利し、3人目の抜けとなりました。
1回戦最後の試合は、布団ちゃん対ドンピシャさん。実力的にはドンピシャさんの方が上とみられていましたが、ドンピシャさんが先の試合のおぼさんと同じくらいの緊張感があり、動きに精彩を欠きます。結果、布団ちゃんが勝利し、これで出場者の半分が勝ち抜けを決めました。
この時点で勝ち組と負け残り組の表情の明暗がくっきり分かれます。数あるトーナメント戦でもこれほど安心感に満ちあふれた表情をする勝者は見たことがないくらいです。かたや負け残り組の焦りは尋常なものではありません。取り返しのつかないことをしてしまったくらいの落ち込みようです。

そんな状況で準決勝が始まります。1試合目はしんじさん対Zerostさん。こく兄さんが嫌がった組み合わせだけに、格上モダンザンギエフに対抗する手段をZerostさんは持ち合わせておらず、負け残り決勝戦進出の最初のひとりに。
2試合目はおぼさん対ドンピシャさん。極度の緊張からまったくいつもの動きができていなかった二人の対決です。緊張感は解消されつつあり、ふたりとも一回戦とは大分動きが良くなっています。ミスは多いものの、コンボはしっかり決めきります。アグレッシブに行き過ぎたか、おぼのE.本田が2ラウンドともバーンアウトし、そこをつけ込まれ、おぼさんが敗北し、もうひとりの決勝進出者となりました。


決勝戦はZerostさん対おぼさん。崖っぷちに立たされたふたりですが、開き直ったのか、これまでの試合で一番落ち着いた動きを見せます。インパクト返しやSA3の割り込みなど、ピンチを回避する行動も見られ、名勝負を繰り広げます。お互いにラウンドを取る攻防の中、強気に攻め続けたZerostさんが勝利しました。これで、消毒杯の初代チャンピオンはおぼさんに決定しました。

消毒杯はどのタイミングでも良いからとにかく、勝ち抜けたいと言う気持ちが、ひしひしと伝わってきました。あと1回勝てば優勝、あと1回勝てばプロライセンス取得、あと1回勝てば1億円と言うようなレベルの絶対に負けられない試合のプレッシャーを1回戦から味わっているようでした。すべての人に緊張感がある消毒杯は他の大会にはないものではないでしょうか。もはやカイジレベルのプレッシャーです。優勝者の落ち込みようも破格なので、おいそれとやれる大会ではないと思いました。参加者同士の関係性の良さがあってこその消毒杯と言う印象も得られました。どんなに厳しいトーナメントでも誰かが勝ち続け優勝するように、どんなに強い選手が集まったとしても誰かが負け続けて最弱のひとりが決定してしまうんだと、改めて思いました。そして、『スト6』を始めとする対戦ゲームは技術はもちろん必要ですが、メンタル面の強さが大きく影響するのだと言うのも消毒杯は再確認させてくれたのではないでしょうか。

eスポーツを精力的に取材するフリーライター。イベント取材を始め、法律問題、eスポーツマーケットなど、様々な切り口でeスポーツを取り上げる。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『ゲーム業界のしくみと仕事がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社刊)。@digiyas