10月10日~13日にフランスのニースで対戦格闘ゲームの祭典「EVO FRANCE 2025(EVO FR)」が開催されました。EVOはアメリカ、ラスベガスで開催される本家と日本で開催されるEVO Japanのふたつで大会のブランド展開をしてきましたが、今回のEVO FRで3つめのブランド展開となりました。

EVO FRのメインタイトルは、『ストリートファイター6(スト6)』『TEKKEN8』『ギルティギア ストライヴ』『グランブルファンタジーヴァーサス -ライジング-』『ドラゴンボールファイターズ』『餓狼伝説 City of the Wolves』『HUNTER×HUNTER NEN×INPACT』の7タイトルで行われました。『ドラゴンボールファイターズ』と『HUNTER×HUNTER』が入っているあたりが、フランス開催らしさと言えます。
今回も『スト6』の結果と試合内容を中心に大会を振り返ってみたいと思います。
EVO FRとは?
EVO FRは、CAPCOM Pro Tourのプレミアム大会に位置づけられており、上位入賞者にはポイントが付与され、ポイントレースの上位6名はCAPCOM CUP 12(CC12)の出場権が与えられます。また、大会優勝者はポイントに関係なくCC12の出場権を得られます。
EVO FRの開催前では、ももち選手の570ポイントがトップで、それに続き、Blaz選手、りゅうきち選手、板橋ザンギエフ選手、EndingWalker選手が続きます。ポイントが加算されるプレミア大会はEVO FRと10月31日~11月2日に開催される中国の「Kuaishou FightClub Championship VI」の2大会しかなく、当落線上の選手にとって少しでもポイントを稼ぎたいところです。
大会の結果としては、LeShar選手が今シーズンのプレミア大会3回目となる優勝を果たします。TOP8の順位は以下の通り。
- 優勝 LeShar選手
- 準優勝 Blaz選手
- 3位 こばやん選手
- 4位 Mister Crimson選手
- 5位 ときど選手
- 5位 Dual Kevin選手
- 7位 どぐら選手
- 7位 カワノ選手

ここで注目なのが、LeShar選手とBlaz選手。LeShar選手はすでに2回のプレミア大会に優勝しており、すでにCC12への切符は持っています。大会ルールは優勝のCC12への出場権は次に好成績の選手に移行されるので、Blaz選手がCC12の出場権を得ます。そして、出場権を持った人はポイントランキングから除外されるので、それまで2位だったBlaz選手はランキングから消えることになります。しかも、ポイントは獲得したうえで消えるので、EVO FRで獲得した2位300ポイントが事実上なかったことになります。結果的にはBlaz選手はももち選手を超える770ポイントを稼いだうえ、ランキングから除外されます。
そこに躍進してきたのが3位のこばやん選手。こばやん選手はEVO Japanの3位以来ポイント獲得がなく、保有ポイントは250ポイントでしたが、今回のEVO FRで稼いだポイント250ポイントと合わせ、500ポイントとなり、一気に2位に踊り出ます。1位のももち選手、3位のりゅうきち選手がポイントの獲得ができなかったので、混沌とした状態になります。同じく5位となったDual Kevin選手が150ポイントを稼ぎ、りゅうきち選手と並び、板橋ザンギエフ選手が5位に後退します。同率5位にはEndingWalker選手が入りました。7位のきんぐすベガ選手は350ポイントとポイントは離れていますが、今大会のこばやん選手のように最後の大会で高ポイントを獲得すれば一気に逆転する可能性はあるので、まだまだ予断は許さない状況です。
現在のランキングです(出場確定者除く)
- 1位 ももち選手 570ポイント
- 2位 こばやん選手 500ポイント
- 3位 りゅうきち選手 460ポイント
- 3位 Dual Kevin選手 460ポイント
- 5位 板橋ザンギエフ選手 440ポイント
- 5位 EndingWalker選手 440ポイント
ーーーーーーーーーーーーーーーCAPCOM CUP 12出場当落ラインーーーーーーーーーーーーーーーー
- 7位 きんぐすベガ選手 350ポイント
- 7位 Punk選手 350ポイント
- 9位 もけ選手 320ポイント
- 10位 Zhen選手 290ポイント
さて、今大会は稀に見る好試合が連発していました。特にこれから紹介するふたつの動画は、歴史に残る名試合として語りつがれるのではないかと思う程です。その2試合を解説していきたいと思います。
名試合を振り返ろう
ひとつめの試合は、TOP8のウイナーズサイドの初戦、3セット2ラウンドめの試合です。こばやん選手(ザンギエフ)対Dual Kevin選手(ラシード)の試合。早々に2セット連取したこばやん選手でしたが、3セットめはDual Kevin選手のシミーが決まりまくりラウンドを先取します。2ラウンドめもイウサールを使い体力優勢をしていきます。ラウンドの中盤にザンギエフの体力が1/4以下になったところで逆転を狙ったドライブラッシュからのドライブインパクトを打ちますがガードされてしまいます。これで一気にバーンアウトしたザンギエフに対してスピニングミキサーから、このラウンド2度目のイウサールを発動。風に乗ったラシードのスピニングミキサーに体力がガンガン削られていきます。この時点でラシードの体力は半分を切ったくらい。圧倒的に有利ですが、ザンギエフにはSAゲージが3つ溜まっており、さらに体力状況からCAに変化しています。つまり、CAを喰らうと逆転を許してしまう場面です。そのため、画面端に追いやってからは1度しか削りに行かず、CAを警戒したDual Kevin選手はバックダッシュを選択します。これを読んでいたこばやん選手は、安易にCAを使わず、SA2を発動。バックダッシュを刈り取ります。SA2はホールド状態だとダメージは少なく、追い打ちができる状態になるので、ダメージ重視で行くのであれば、SA2をホールドせずに投げるか、ホールドした後、ボルシチダイナマイトで大ダメージを取りたいところです。しかし、どちらもリーサルには届かず、危険な状態で戦いを続けなくてはなりません。そこでこばやん選手が選択したのはニーパッド。追い打ちとしては700しか追加ダメージを与えられませんが、10フレームの優位がとれ、密着状態になります。そこでDual Kevin選手が取れる行動としては、再度バックダッシュで逃げる、バックジャンプで逃げる、ODスピニングミキサーで暴れる、ガードをするなどです。





ODスピニングミキサーは相手がガードしていたら手痛い反撃を喰らう技ですが、ザンギエフはバーンアウトが継続しており、体力も2ドットくらいしか残っていなかったので、削りきる可能性は大きい。一回距離を離して仕切り直しをするにしろ、さきほど咎められたバックダッシュはしにくい。なんなら密着での強スクリューパイルドライバーは恐ろしいのでガードやパリィはもってのほか。そういった選択肢の中から、Dual Kevin選手が選んだのはバックジャンプでした。もしかしたら反射的にジャンプしてしまったのかも知れませんが。
Dual Kevin選手の行動を読み切ったのか、こういった場面での太い選択肢として選ぶべきものだったのか、こばやん選手が選んだのは、着地と同時にSA1の発動でした。SA1は完全無敵時間が1フレーム目から発動し、17フレーム継続します。ラシードのODスピニングミキサーは1フレームめから完全無敵となりますが、8フレームまでしか継続できず、SA1に負けてしまいます。さらにバックジャンプ、垂直ジャンプも投げることができ、結果として、バックジャンプをしていたラシードを捕まえることができました。ラシードの体力状況からおそらく残っていた体力は5000ちょい。SA2とニーパッドで1800、SA1が3500なので、ほぼピッタリのダメージでリーサルをしたと思われます。ちなみにCAは5300のダメージなので、SA2とSA1を組み合わせたことで同じダメージを作り出しました。SA1は空中にいる相手にしか決まらないので、ガードや地上技での反撃をされていたら負けていました。なので、空中へ逃げるかODスピニングミキサーでの反撃を読んでいた結果と言えます。
削りダメージでも負けが決まるところを唯一の逆転の道と思われたCAを警戒させ、ギリギリのリーサルを決めたのは、令和の“背水の逆転劇”と言えるのではないでしょうか。
ふたつめの試合はTOP8ウイナーズサイドのもうひとつの試合、ときど選手対LeShar選手戦です。ときど選手はJP、LeShar選手はEDを出してきます。1セット目はLeShar選手が勝利し、ここでときど選手はケンにスイッチします。そこから1セットずつを取り合い、2-1で迎えた第4セット。お互いにラウンドを取り合った状態で3ラウンドめに突入します。ほぼ互角の戦いで、少しずつしかダメージが奪えず、ときど選手は約4割の体力、LeShar選手は約5割の体力で残り時間6秒を迎えます。ドライブゲージの状況が良くないLeShar選手はここで時間稼ぎとドライブゲージの回復を目論見、このラウンド2度目のSA2を放ちます。その瞬間にときど選手はSA3を発動。EDが放ったサイコキャノンをすり抜け、ケンの攻撃が当たります。しかし、ケンとEDの距離が離れていたため、ケンのSA3は本来の能力を発揮できません。ケンのSA3は性質上、初段が当たらないと、ヒット演出が出ず、いわゆるカス当たりとなり、本来のダメージを奪えません。しかし、先に地上に降りる追撃のチャンスはあり、そこで弱昇龍拳を打ち、ダメージを加算させ、体力が逆転します。さらに、ダウンしたEDに対して起き攻めもできる有利な状況になります。『スト6』はSAやCAが発動中はタイマーが停止する仕様となっているので、この時点でタイマーは5秒と1秒しか経過していません。残り5秒を守り切るのも、攻めきるのも至難の業といえます。そこでときど選手が選択したのは、ダウンしたEDに強パンチを重ねることです。これにより有利をとり、5秒間攻め続けて倒しきる、もしくはタイムアップを狙いました。それに対してLeShar選手が選択したのは、ドライブパリィ。これが見事にジャストパリィとなり、反撃を開始します。ジャストパリィのおかげで反撃することができるようになりましたが、ドライブパリィ後はダメージが半減するので、叩き込むコンボによっては体力が逆転できません。そこはさすがLeShar選手。トドメとなる一撃を強アッパーにすることで見事に逆転しました。しかも、強アッパーでケンが吹き飛んだ瞬間にタイムアップとなり、時間的にも最適なコンボレシピで倒しきりました。




勝負事にたらればを言うのはタブーですが、ケンのSA3の後の追撃が弱昇龍拳でなく、OD昇龍拳であれば逆転されなかったでしょう。しかし、弱昇龍拳は発生5フレーム、OD昇龍拳は発生6フレームと1フレームの差があります。OD昇龍拳を打っていたら、追撃が入らない可能性もありました。起き攻めも強パンチ重ねではなく、投げ重ねであれば、パリィによるパニカンで倒し切れていました。
後からはいろいろ言えますが、おそらくときど選手もLeShar選手も最適な手段を使っての結果となったと思います。たった6秒の間に行える行動、思考としてはもはや異常と言えるレベルであることは言うまでもありません。『スト6』史上、もっとも長かった6秒間だったのではないでしょうか。
そしてみっつめはルーザーズセミファイナルのBlaz選手(ケン)対Mister Crimson選手(ダルシム)戦です。セットカウント2-1のうえ、お互いがラウンドをとり、Blaz選手のマッチポイントで行われた4セット、3ラウンドめ。ケンのSA3が決まり、大きくダメージを奪ったあと、ダルシムが放った起死回生のドライブインパクトをケンはドライブインパクトで返します。これでダルシムの体力はわずかとなり、さらにバーンアウト状態です。かたやケンはSAゲージがないものの、体力は9割方残っており、ドライブゲージも3本ある状態。ほぼ詰んでいると言える状態から、ケンはOD昇龍拳で削りKOを狙います。しかし、倒しきりができず、ダルシムの体力は1ドット残ります。昇龍拳をガード後はパニッシュカウンターとなり、最大ダメージを取れる場面です。虎の子のSAゲージを使いSA1でコンボを締め、ケンの体力を約4割にまで減らし、バーンアウト状態に。しかし、必殺技をガードするだけで、負けてしまう状況には変わらず、もう一度、大きなコンボを入れないと逆転はできません。ケンの波動拳をジャンプとドリルキックで躱すと、奮迅脚を使って近づきます。ここで昇龍拳を打ちたいBlaz選手でしたが、コマンドミスか昇龍拳が出ません。そこをダルシムが後ろ投げで画面端に追いやります。ここで先にバーンアウトが解除されたダルシムはケンのジャンプキックをドライブリバーサルで返し、ヨガフレイムを起き上がりに重ねます。そこにケンはリバーサルでSA1を出しますが、ケンのSA1には弾無敵がついておらず、そのままヨガフレイムを喰らってしまいます。そして、そこから再度ヨガフレイムを打ちガードしたところにドライブインパクトを打ちスタンさせ、大逆転で勝利しました。これも令和の背水の逆転劇と言えるほどの逆転勝利でした。






神試合が続出した今大会
初めてのフランスのEVOでしたが、神試合が続出し、大成功と言えるのではないでしょうか。新進気鋭のBlaz選手の躍進や地元フランスのプレイヤーであるMister Crimson選手の活躍など、盛り上がる点はまだまだありました。特にMister Crimson選手への応援はMister Crimson選手の4位の成績を支えました。まさにホームタウンディシジョンと言った感じでした。
【日本語実況】EVO France 2025 – Day3「CAPCOM Pro Tour 2025 Premier」
- TOP8 ウイナーズ1回戦 こばやん選手対Blaz選手 45:02
- TOP8 ウイナーズ1回戦 ときど選手 対 LeShar選手 1:03:56
- TOP8 ルーザーズセミファイナル Blaz選手 対 Mister Crimson選手 2:47:10
(c)CAPCOM
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。イベント取材を始め、法律問題、eスポーツマーケットなど、様々な切り口でeスポーツを取り上げる。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『ゲーム業界のしくみと仕事がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社刊)。@digiyas