【REJECT Mayインタビュー】「Predator League」3年連続出場、仕事と両立しながらも『Dota 2』を続ける理由
2025年1月8日から12日にかけて、Acerが主催するアジア・パシフィック地域の国際大会「The Asia Pacific Predator League 2025 Grand Finals」が、マレーシア・クアラルンプールにて開催。本大会では、『Dota 2』と『VALORANT』の2タイトルが採用され、『Dota 2』には日本代表チームとして「REJECT May」が出場しました。
「REJECT May」は、2022年に「Predator League」出場のために復活したドリームチーム。日本国内では数少ない『Dota 2』で活動するメンバーが集まっており、今年も「Team May」にプロチーム「REJECT」がサポートする形で、「REJECT May」として出場しました。
「REJECT May」はグループステージで、フィリピンチームの「Execration」とモンゴルチームの「123 Gaming」と対戦。実績ある強豪プロチームを相手に、残念ながら勝利に届かず、グループステージ突破は叶いませんでした。試合を終えた後、現地で実施した「REJECT May」へのインタビューをお届けします。
「今年で最後かな」から1年、再び出場を決めた経緯
――まず最初に、リーダーのうたたねかえる選手から、今年の「REJECT May」のチーム体制について教えていただけますか?
うたたねかえる:今年の「Predator League」のお話をいただいたときに、まずは去年出場したメンバーに声をかけました。そこで、toyomaruさんが今年は難しいということだったので、僕ら4人で検討して、去年スタンドインとして来てくれたpuruさんを呼ぼうということになりました。
――puru選手はもともとプレイしていたポジションから、toyomaru選手が担っていたポジション(5番、ハードサポート)に変更して出場されたということですね。
puru:はい。もともとやっていたポジションは3番、オフレーンでした。
――今年はコーチも、Jongコーチからdeltaコーチに変わっています。
うたたねかえる:Jongは今『Dota 2』から少し離れているようだったので、今年はdeltaさんにお願いしました。
――deltaコーチは去年通訳として来られていましたが、今回は主にどういった役割を担っていたのでしょうか?
delta:立場的には何でも屋というか、資料を用意したり、練習の話し合いに入ったりしていました。
――今年も『Dota 2』の採用が決定し、2024年7月ごろリーダー宛てに出場を打診する連絡があったと聞きました。去年のインタビューで「今年が最後かな」と話していたという話題もありましたが、皆さん今年の出場をどのように決められたのでしょうか?
Suan:僕のなかでは、去年出せるものは出し切ったんじゃないかという、やりきった感もありました。ただ、やっぱりみんながまだ挑戦するなら、僕も一緒にやりたいなと思って出場を決めました。
Arab:今年は正直、代わりの選手がいたら譲る気だったんですが、いないんです。大会に出るとなると練習も大変だし、生活が『Dota 2』中心になってしまうので、本当に去年で終わろうと思っていました。でも、人数がそろわなかったら、この話自体がなくなってしまいそうで。出たい人もいるのに、それはもったいないので、なんとか出場しました。
baseballdogs:スケジュール的には、仕事の調整もしなければならないし、いろいろ大変でした。でも、去年1勝できたことで、人間やっぱり欲が出るんですよね。1勝したら、次は2勝できるんじゃないかって。そういう淡い期待もありつつ、やってみるかと思って参加しました。
puru:僕は去年6人目として行かせてもらって、今年は試合に出れるということだったので、行ってみようという感じでした。
――うたたねかえる選手は、メンバーの返答をどんな気持ちで待っていたのでしょうか。
うたたねかえる:僕は出たいと思っていたんですが、みんなが出てくれなかったら、他にメンバーの当てもないですし……。出るならこのメンバーでやりたかったので、「頼む、来てくれ!」と願っていました。
――Acer Japanとしては、「Team May」以外に出場チームを探すのは現実的ではないと考えていたそうです。つまり、今年『Dota 2』の日本代表チームが出場するかどうかは、皆さんの判断にかかっていたわけですが、そういった面も意識していましたか?
うたたねかえる:そうですね。誰かが出ないと、こういう機会が今後もなくなってしまいます。誰かがやらないと、本当にシーンが死んでしまうというか。なので、少しでも続けていけるようにと思っています。
さまざまな制約があるなかでも、大会に向けて最大限練習
――それぞれ仕事もあるなかで、どれくらいの頻度や時間でチーム練習をしていたのでしょうか?
うたたねかえる:練習は週3~4日くらい、時間としては夜20時くらいから1時くらいまでです。
baseballdogs:チーム5人での練習は1時くらいまでで、そこからできる人は各々ソロランクをまわしていました。
――チームとしては、大会に向けてどのような準備をしてきましたか?
うたたねかえる:今回は去年よりも、チームとして「序盤のこのタイミングはこうしよう」といったことを、しっかり話し合って決めていました。あとは、みんなそれぞれヒーローを3体ずつくらい仕上げていこうとか、そういう準備をしていました。
delta:みんな出場すると決めてから、ゲームへのモチベーションもスキルも上がっているのがよくわかりました。ソロランクでも、特にArabさんはどんどんレートを上げて8,000に到達していて、「Predator League」という目標ができたことがすごく大きかったと思います。
――チーム活動だけでなく、ソロランクでもかなりストイックに練習されていたと。
Arab:空いている時間をどうにかソロランクにまわしていました。他にもやりたいことはあったのですが、半年くらいはいろいろ我慢してやっていました。
――『Dota 2』でレートを8,000まで上げるというのは、どれくらいすごいことなのでしょうか?
Suan:もとが7,000でそこから8,000に上げたということは、自分と同等の実力の相手に対して40試合勝ち越したということなので、相当すごいです。
うたたねかえる:東南アジアサーバーの順位でいうと、3,000~4,000位から1,800位くらいまで上がっています。
――今回グループステージで戦ったチームは、2チームともかなり強い相手だったと思います。これはグループ分けのくじ運によるものでしょうか。それとも、全体的に出場チームのレベルが上がっているのでしょうか?
baseballdogs:くじ運も悪かったですけど、強くもなっていましたね。モンゴルチームは特に。去年より戦っていて絶望感がありました。
――グループが振り分けられて、対戦チームが決まったときにどう感じましたか?
Arab:強いとしか思えなかったですね(笑)。どちらも知っているチームで、知っている時点で少なくとも弱くはないので。
delta:でも、相手が強すぎるからこそ、ある程度割り切った戦い方をしようという話もしていましたね。まずレーンで負けたら取り返せないから、そこをしっかり押さえていこうとか。
Suan:五分の集団戦になれば、こちらにも勝機があるんじゃないかと話していました。これまでの大会でも、集団戦がチームの強みだとJongコーチも言っていたので。ただ、集団戦に持っていくためには、レーニングを成立させる必要があり、チームでも個人でも、そこを重点的に考えて練習してきました。
――Bo1ならではの奇策を用意する考えなどはありましたか?
Suan:考えてはいました。ミッドのかえるくんが一番強くて、試合の流れをつくるポジションです。なので、かえるくんが有利になるように、僕がどちらの川にルーンが出現するかを知ることができるヒーローを使う作戦を考えていました。
昨日のスクリムでその作戦を、実力が同じくらいの相手に試してみたら上手くいったのですが、格上のチーム相手にやってみたら上手くいかなくて。どうしてもレーンが弱くなってしまうので、その作戦は使わず、集団戦にいくためのレーン戦を重視した戦い方に戻しました。
――昨日(試合前日)はチームブースが使える限り遅くまで練習されていましたが、リーダーが「最後までやろう」と声をかけたと聞きました。
うたたねかえる:そうですね。ここまで来て、やらなくて何か思うことがあるくらいだったら、最後までできることやろうという気持ちがありました。
成長を感じるものの差が縮まらず、壁の高さを痛感
――それでは改めて、今年の試合を終えての感想や今の気持ちを教えてください。
puru:toyomaruさんの偉大さを感じました。自分にはちょっと荷が重かったです。でも、突然チームに入ることになっても、みんながすごく良くしてくれて、練習も楽しかったので感謝しています。
Suan:試合には負けてしまいましたが、このレベルのチームと試合すること自体なかなか経験できないことなので、良かったなと思います。個人的には、1戦目に戦った「Execration」のlewis選手と、東京で「Predator League」が開催されたときに、一緒にお酒を飲んだことがあったんですよ。いつか試合で戦いたいなと思っていて、それが叶ったので嬉しかったです。
うたたねかえる:非常に悔しいです。去年の大会が終わってから、1年を通して自分自身で結構強くなったなと思う部分もあったのですが、いざ戦ってみると全然通用しなくて、壁の高さを痛感しました。
僕のレーンは1対1なので、そこで絶対に負けないように頑張ろうと思っていました。そのなかで、特に2試合目は相手が格上の、ランクで言うと40位くらいの強い選手だったんですが、序盤それなりにいい形で進められて、そこは自分の成長を実感できました。
Arab:出場3年目になりますが、チームとしても個人としても、年々少しずつやれるようになってきていると思います。今回2試合とも負けてしまいましたが、序盤は1~2年目に比べたら全然試合の形になっていて、そこはずっと続けてきて良くなってきた部分だと思います。
ただ、それでもやっぱり上位との差の大きさを毎年感じていて、その差の縮め方に苦しんでいます。大会が終わって僕らが試合を通して学んだことは、強いチームだと当たり前のことだったりします。普段のソロランクでもチーム戦でも、そこのギャップの縮め方に毎年苦しめられています。
baseballdogs:一言で言うと、厳しかったですね。2024年は個人的にすごく忙しくて、練習との両立がかなり難しい状況にありました。取れる時間のなかでやっていましたが、みんながどんどん上手くなっていくのに、どうしても時間が取れない自分が置いていかれてしまう部分もありました。
やっぱり大会では、自分の足りなさが露呈してしまって、負けに直結するところがあったので、厳しかったなと。ただ、大会成績としては良くなかったし、みんなにも迷惑をかけてしまったけれど、仕事となんとか両立させていくなかで、自分の人生においてすごく価値あるものを得られたと思います。
delta:もちろん悔しさはありますが、みんながこの大会に向かって一致団結している姿を見て、僕自身も感化されるところがありました。大会に向かって頑張っている姿を見ることができて、「Predator League」に出られて良かったなと、本当にAcerさんに感謝しています。
――やはりフルタイムのプロチームを相手に戦うとなると、どうしても厳しい戦いになると思います。それでも大会に挑むことには、どういった思いがあるのでしょうか。
baseballdogs:「来年こそは勝てるんじゃないか」という未練がましさですね。チャンスが来る限り、「次こそは、次こそは……」と言っている気がします。
Arab:その層のチームと戦えるのが、こういう場しかないんです。大会に出ているような人たちとは、練習期間中にスクリムもできないし、ノーマルマッチをまわしても、そのレベルの人たちはやっていません。
あとは、普通の人ができない経験だからというのもありますね。ゲームをやっていたら海外に行くなんて、昔は思ってもいなかったですし、そういう経験をしたいから来ているというのもあります。
Suan:純粋に、みんなで真剣にひとつの目標に向かっていくことが好きなのかなと思います。昔からチームに入ってやってきて、たくさん大会があった時期もあって、日本一になって。そうやって昔からやってきたし、こういう機会も年に一度しかないので、だから出ているんだと思います。
うたたねかえる:夢見すぎかもしれないですけど、僕は勝って歓声のなかでトロフィーを掲げてみたいという夢を持っています。
難しい環境でも続けるのは、『Dota 2』が好きだから
――もしフルタイムのプロチームで活動することを優先するなら、別のタイトルに移って活動するという選択肢もあると思います。皆さんはこれまで、そういった選択を考えたことがありますか?
うたたねかえる:みんな『Dota 2』が好きだからやっていると思います。
baseballdogs:僕は一時期、配信を兼ねて『League of Legends』をがっつりやったことがありました。2ヶ月くらいでダイヤモンドまでいけて、そのまま続ければ上位にいけるなと思ったんですが、面白さが全然違うと自分は感じてしまって。チームでやったことはなかったので、そこに新しい楽しみ方があったかもしれませんが、ゲーム自体の奥深さが違うなと感じました。
――やはり『Dota 2』ならではの奥深さが魅力だと。そのあたりは皆さん一緒ですか?
全員:(うなずく)
delta:みんな新しいゲームが出ても数ヶ月で飽きてしまうのに、『Dota 2』はもう10年以上やっているので、唯一飽きないゲームですね。
baseballdogs:あと正直、今から新しいタイトルにいくのは、年齢(28歳)的に厳しいというのもあります。
――来年も「Predator League」で『Dota 2』が採用されるかはまだわかりませんが、もし『Dota 2』が採用されたら出場したいですか?
うたたねかえる:自分はめちゃくちゃ出たいです。ただ、1人では出場できないので、あとはメンバーがどうなるかですね。
――皆さんにとっては、やはり仕事との兼ね合いが一番の難関ということですね。
Arab:そうですね。この1週間も結構無理して来ているので。
baseballdogs:やっぱり日本では、『Dota 2』では暮らしていけないので……(笑)。
――baseballdogs選手は、練習のためにチームブースにいる間も合間を縫って仕事をされていましたね。
baseballdogs:移動日と試合の日だけお休みをいただいて、あとはもうなんとか調整しながら……。でも、充実感は大きくて、後悔はないです。好きなことをやっているので、大変ではありますがつらくはないですね。
――皆さん出たい気持ちはあって、あとは出られるかどうかだと。
Arab:モチベーションが下がったとかはないです。でも、現実的に行けるかという、そこが毎年つきまとっている状況ですね。
baseballdogs:出たいか出たくないかではなく、出れるか出れないかの判断です。それを、どうやって気合いで出れるほうに持っていくかみたいな。
delta:あとは、日本代表や「REJECT」の名前を背負うことに対して、恥ずかしくないように、しっかり練習して準備できるかも含めて考える必要があると思っています。
――昨今のeスポーツシーンでは、兼業で活動する選手のほうが珍しくなりつつあります。それでも、自分の好きなゲームで、仕事と両立させながらでも活動してみたいという人がいたら、何か伝えたいことはありますか。
Arab:両立させようと思うと、『Dota 2』のために仕事をするし、仕事のために『Dota 2』をする。どっちにも身が入って、ある意味では両方充実します。なので、二足のわらじを履いてみるのも、経験のひとつとしては良いかもしれないですけど、でもやっぱりしんどいです。
社会人が夜中の1~2時まで練習するのは、頭がおかしいと思っていて(笑)。普通に翌日の朝から仕事があるわけで、月曜や火曜に練習があると、週の後半には死にそうな顔をしながら働いていました。それを覚悟のうえで、好きならやるしかないという感じです。
自分も『Dota 2』に専念できるなら、やってみたい気持ちはあります。今日戦った相手がそうだったように、働く時間も全部『Dota 2』に費やしたらどこまでいけるんだろうというのは、毎年思ってはいます。でも、年齢(28歳)を考えると、それはもう過ぎたのかなって。そこは悩みつつも、やれる時間のなかでやっていくしかないのかなと思っています。
――それでは最後に、応援してくださった方々や出場をサポートしてくださった方々に向けてメッセージをお願いします。
puru:今回の出場にあたって、いろいろな人から「頑張れ」と言っていただいて、すごく力になりました。日本の『Dota 2』シーンがもっと盛り上がればいいなと思います。ありがとうございました。
Suan:正直勝ち上がるのは厳しいと思われていたかもしれませんが、それでも信じて応援してもらえたことは、すごく励みになりましたし、僕たちも真剣に立ち向かうことができました。ありがとうございました。
Arab:まずは、応援ありがとうございました。 実況解説のvioletさんやhiro3355さんにも都合をつけて出てもらえて、『Dota 2』を日本にというところで、いろんな人が動いてくれて、どうにかギリギリ成り立っていると思うので、毎年感謝しています。結果としては、良い意味で期待を裏切ることはできませんでしたが、引き続き応援してもらえると嬉しいです。今年の「Predator League」も、ありがとうございました。
baseballdogs:携わってくださったすべての方に感謝を伝えたいです。ありがとうございました。あとは、toyomaruさんに吉報を届けられなかったのは悔しいですね。勝って、toyomaruさんに「もうお前なんかいらねえよ」と言いたかったんですけど(笑)、言えなかったのが悔しいです。ありがとうございました。
delta:僕は応援する側でもあったので、選手たちが出られる環境をつくってくださったAcerさんとREJECTさんに、とても感謝しています。半年くらいの間、選手たちがすごく頑張っているところを見られましたし、結果としては負けてしまいましたが、みんなのすごいところも見られて良かったです。
うたたねかえる:まずは、大会に招待してくださったAcerさん、出場をサポートしてくださったREJECTさん、ありがとうございます。戦う相手がどんなチームだったとしても、応援してくれる人たちがいるからこそ、僕たちも頑張れるので、応援の声がすごく力になりました。ありがとうございます。そして、deltaさんやチームメイトのみんながいなければ、ここまでやってこれなかったと思うので、ありがとうございます。
――「REJECT May」の皆さん、ありがとうございました!
■「REJECT May」
REJECT: https://x.com/RC_REJECT
うたたねかえる選手:https://x.com/kaeru_dota2
Arab選手:https://x.com/Araaaaaaaaab
baseballdogs選手:https://x.com/baseballdogs5
Suan選手:https://x.com/Suanzk
puru選手:https://x.com/purupuru4649
■「Predator League」日本語配信
YouTube:https://www.youtube.com/c/AcerJapanChannel
Twitch:https://www.twitch.tv/predator_japan